Beranda / ミステリー / 水鏡の星詠 / 眠れる水の島 ③

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眠れる水の島 ③

Penulis: 秋月 友希
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-10 16:13:53

 酒場へ続く道は、人々の活気で満ちている。

 港のすぐ近くに位置するその酒場からは、潮の香りとざわめきが入り混じった喧騒が漏れ出ていた。

 中から響く杯の音と豪快な笑い声——それはリノアとエレナにとって慣れない空間だった。

 二人は扉の前で立ち止まり、お互いに目を合わせると、意を決したように扉を押し開けた。

 ざわめく会話と木製のカウンターにぶつかる杯の音が耳に届く。

 リノアはまっすぐ店主の元へ向かった。

「ルシアンという人を探しているのですが……」

 カウンターに立つ店主にリノアが尋ねると、彼はグラスを拭きながら眉をひそめた。

「ルシアンか……。いつもならこの時間に顔を出すんだがな。まだ今日は見ていないな」

 エレナはゆっくりと店内を見渡し、賑やかなテーブルに座る船乗りたちへ視線を向けた。

「誰か、ルシアンがどこにいるか知りませんか?」

 すると、奥のテーブルに座っていた初老の船乗りが、杯を傾けながら顔を上げた。

「今日は遅れると言っていたよ。誰かと会うらしいが、詳しいことは知らん……。最近、何かと忙しそうでな。『潮の流れが変わった』なんて話をしていた時、妙に考え込んでいたのが気になったが……。夕方には来ると言っていた」

 リノアとエレナは顔を見合わせた。

「リノア、どうする? 夕方だって……」

 今すぐルシアンに会えない以上、次にできることは限られている。

 リノアはエレナと視線を交わした。

 これ以上、ここにいても有益な情報は得られそうにない。

「ありがとうございます。夕方にでも、また来ます」

 そう告げると、二人は席を離れ、店の出口へ向かった。

「ルシアンに伝えておくよ。女の子たちが探してたって」

 初老の船乗りが、背中越しに言った。

 リノアとエレナは足を止めて、彼に軽く礼を述べた。

 扉を押し開き、二人は酒場を後にする。

 酒場を出た瞬間、リノアは軽く目を細めた。外の光が思った以上に強い。

「ルシアン、誰と会っているんだろうね」

 リノアが呟く。

 リノアは潮風を感じながら、エレナの言葉を待った。

「ルシアンが誰かと会っている理由……そんなの、いくらでもあるんじゃない?」

 エレナは軽い口調で言った。しかし、その目は真剣そのものだった。

 エレナの思考はふと、ある一点に向かった。エレナがじっと水面を見つめている。

 風が頬を撫でると、エレナは髪をそっ
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  • 水鏡の星詠   眠れる水の島 ⑥

     夕方にはルシアンが帰ってくる——それまでの時間、リノアたちはアークセリアの街並みを見て回ることにした。 陽の光が傾き始める頃、石畳の路地には行き交う人々のざわめきが響いていた。露店の店主が声を張り上げ、街角では旅人たちが談笑している。 通りを抜けた先に小さな広場があり、楽師たちが集まって演奏をしていた。 弦の音が軽やかに舞い、打楽器の深い響きがそれを優しく支える。その旋律は風に乗り、広場にいる人々の心をゆるやかに包み込んでいった。「クローブ村とは全然違う……この街はどこか不思議な魅力があるね」 エレナが感嘆の声を上げ、広場の中央に設けられた長椅子に腰を下ろした。リノアもその隣に座り、奏でられる音色に耳を傾けて、エレナと一緒に街の風景をゆっくりと眺めた。 広場の一角には屋台が並び、焼きたてのパンやこんがりと焼かれた肉の串が湯気を立てている。「せっかくだし、何か食べようか」 エレナが目を輝かせて立ち上がり、期待に満ちた表情で屋台へと足を向けた。 二人は並んだ料理の数々をじっくりと見定める。「あの焼きキノコ、いい香りがする。あっちのスパイス煮込みも美味しそう」 スパイスの香りが鼻腔をくすぐる。 迷うリノアをよそにエレナはすでに決めたようで、屋台の主人から勧められた果物の包み焼きを手に取っている。「それ何の果物? クローブ村にはなかったよね、そういうの」 リノアが興味深げに尋ねると、エレナは包みを開きながら肩をすくめた。「うーん、なんだろ。分かんない。でも、こういう甘みのある料理、好きなの」 その言葉の通り、エレナは迷いなく一口かじり、幸せそうに目を細めた。 リノアもその様子につられ、ひとつ注文してみることにした。 香ばしい生地の中から、煮込まれた果物の甘みがじんわりと広がる。初めて口にする味にリノアは満足げな表情を浮かべた。 広場の楽師たちの演奏が風に乗って流れ、夕暮れの空が柔らかな金色に染まっていく。 この街は旅人の心を穏やかに解きほぐす。そのような場所なのかもしれない。 夕刻までのひととき——ルミナス島へ向かう前の最後の静かな時間だ。 この穏やかなひとときが終われば、旅は新たな局面へと進む。 夕暮れがゆっくりと訪れ、空が淡い紫に染まる頃、二人は、この静かな時間を味わいながら、次なる旅路へと思いを馳せた。

  • 水鏡の星詠   眠れる水の島 ⑤

     二人が次に向かった先は武器屋だ。 ルミナス島へ渡るためには、しっかりとした装備が必要になる。 古びた石造りの店の扉を押し開けると、中には整然と並ぶ剣や短剣、弓が光を放っていた。 店主は鋭い目を持つ壮年の男で、二人が入るとゆっくりと顔を上げた。「旅の支度かい? なら、しっかりしたものを選びな」 店内の奥へ進むと、武器棚の隣に整然と鉱石が並べられていた。「武器屋なのに鉱石……?」 磨かれた黒曜石や、わずかに輝く雷光石、深い青を宿した魔鉱石——これらは一体、なんだろう。 リノアは息を呑んだ。「勿論、普通の鉱石じゃないぜ。その鉱石自体に特殊な力が秘められているんだ」 リノアは鉱石の並ぶ棚を眺め、指先で「凍結の晶核」をなぞった。 その冷たい輝きが霧の深い森での戦いに役立つことを思うと、自然と唇が引き締まる。「その『凍結の晶核』は特殊な鉱石だ。霧の中で振動を与えると、一瞬で周囲の水分を凍らせる。足場を作ったり、敵の動きを封じたりとな。昔、寒冷地の戦士たちはこれを罠として活用していたそうだ」 リノアの脳裏に霧深い森の情景が浮かんだ。視界の悪い中で敵の足元を瞬時に凍らせることができれば、戦闘の流れを大きく変えられる。ただ霧に惑わされるのではなく、その霧を自分の武器として活かすことができるのだ。「この『凍結の晶核』、弓矢の矢尻としても使える?」 エレナは鉱石をじっと見つめながら、店主に尋ねた。「可能だ。少し手を加えるだけで誰でも矢尻にすることができる。特別な技術は必要ない」「遠距離からも狙えるなら、かなり使えそうね」 エレナは呟き、鉱石の重さを測るように手のひらで転がした。 弓の扱いには慣れている——この鉱石の特性を活かせば戦術の幅が広がる。霧の中で冷気を操ることで、戦局を有利に導けるはずだ。 エレナは鉱石の活用方法を思案し、満足げに頷いた。 リノアは隣に並んだ『水影石』も手に取った。角度を変えて光の反射を確認する。「それは水を反射して、視界を奪う鉱石だ。光の屈折を利用して姿を隠すだけではなく、幻影を生み出すこともできる優れものだな」 リノアとエレナは互いに視線を交わし、その利便性を確かめるように頷いた。「これはどうだ? 一定の光を蓄え、暗闇で瞬間的に発光する。動物の目をくらませるのに、探検者たちが良く使っているものだ」 店主が手

  • 水鏡の星詠   眠れる水の島 ④

    「この後、どうしようか?」 リノアが湖面を見つめながら言った。 ルシアンを待つ間、時間を無駄にするわけにはいかない。 エレナは少し考え、視線を街の方へ向けた。「時間もあることだし、道具でも揃えない? この街に何があるのか興味があるし」 エレナの言葉にリノアが頷き、二人は路地に入って行った。 石畳の路地は狭く、両側に古びたレンガ造りの建物が立ち並んでいる。壁には蔦が絡まり、窓辺には色褪せた木製の看板が揺れていた。 市場の活気は、ここにも溢れている。商人たちの声が響き、革の袋に詰められた香辛料の香りが微かに漂う。 リノアとエレナは時折、足を止めて、並ぶ品々を見定めた。 鍛冶職人が鉄を打つ音が遠くで聞こえ、パン屋の店先では焼きたての香ばしい匂いが満ちている。 どこか時間の流れが違うような、そんな空気がこの路地にはあった。二人はその雰囲気を味わいながら、必要な道具を探し求めた。「ルミナス島へ行くなら、これも必要じゃない?」 エレナが指さしたのは、特殊な防水布。湖の湿度が高いため、荷物を守るのに適している。 リノアがふと足を止め、店先に並ぶ奇妙な道具に目を留めた。「これ、何だろ」 リノアの視線の先に『ルミナスの祓石』がある。「はらい石?」「ああ、それはね。湖の湿気が濃い時、この石を振ると周囲の霧を払うことができるんだ。船乗りたちに重宝されてるよ。霧を散らす銀の石だね」 店主は誇らしげに説明した。 リノアは慎重に『ルミナスの祓石』を手に取る。 その表面には細かい模様が刻まれていて、ひんやりと冷たい感触があった。「きっと霧が深いだろうからね。何かの役に立つんじゃない?」 エレナの言葉にリノアは満足そうに頷き、さらに役立ちそうな品を探した。 リノアとエレナは店内をゆっくりと歩きながら、興味深げに棚を眺める。「これは……?」 リノアが手に取ったのは、『月光草の乾燥葉』「それは夜間に光を反射するものだ。薄暗い場所で目印に使うと良いよ」 店主の言葉にエレナも身を乗り出し、葉の質感を確かめた。「この葉は、どれくらいの時間光るのですか?」 エレナが訪ねた。「月光草の乾燥葉は光を蓄えてから約三時間ほど輝きを保つ。ただし、光の強さは時間とともに弱まるから、補助的な光源として使うのが良いだろう」 店主は落ち着いた口調で説明した。「三

  • 水鏡の星詠   眠れる水の島 ③

     酒場へ続く道は、人々の活気で満ちている。 港のすぐ近くに位置するその酒場からは、潮の香りとざわめきが入り混じった喧騒が漏れ出ていた。 中から響く杯の音と豪快な笑い声——それはリノアとエレナにとって慣れない空間だった。 二人は扉の前で立ち止まり、お互いに目を合わせると、意を決したように扉を押し開けた。 ざわめく会話と木製のカウンターにぶつかる杯の音が耳に届く。 リノアはまっすぐ店主の元へ向かった。「ルシアンという人を探しているのですが……」 カウンターに立つ店主にリノアが尋ねると、彼はグラスを拭きながら眉をひそめた。「ルシアンか……。いつもならこの時間に顔を出すんだがな。まだ今日は見ていないな」 エレナはゆっくりと店内を見渡し、賑やかなテーブルに座る船乗りたちへ視線を向けた。「誰か、ルシアンがどこにいるか知りませんか?」 すると、奥のテーブルに座っていた初老の船乗りが、杯を傾けながら顔を上げた。「今日は遅れると言っていたよ。誰かと会うらしいが、詳しいことは知らん……。最近、何かと忙しそうでな。『潮の流れが変わった』なんて話をしていた時、妙に考え込んでいたのが気になったが……。夕方には来ると言っていた」 リノアとエレナは顔を見合わせた。「リノア、どうする? 夕方だって……」 今すぐルシアンに会えない以上、次にできることは限られている。 リノアはエレナと視線を交わした。 これ以上、ここにいても有益な情報は得られそうにない。「ありがとうございます。夕方にでも、また来ます」 そう告げると、二人は席を離れ、店の出口へ向かった。「ルシアンに伝えておくよ。女の子たちが探してたって」 初老の船乗りが、背中越しに言った。 リノアとエレナは足を止めて、彼に軽く礼を述べた。 扉を押し開き、二人は酒場を後にする。 酒場を出た瞬間、リノアは軽く目を細めた。外の光が思った以上に強い。「ルシアン、誰と会っているんだろうね」 リノアが呟く。 リノアは潮風を感じながら、エレナの言葉を待った。「ルシアンが誰かと会っている理由……そんなの、いくらでもあるんじゃない?」 エレナは軽い口調で言った。しかし、その目は真剣そのものだった。 エレナの思考はふと、ある一点に向かった。エレナがじっと水面を見つめている。 風が頬を撫でると、エレナは髪をそっ

  • 水鏡の星詠   眠れる水の島 ②

     太陽が高く昇り、波が煌めく午後の船着き場。 リノアは桟橋を歩きながら視線を巡らせた。忙しそうに動く船乗りたちの姿が見える。 潮の香りが満ちる空気の中、船を繋ぐロープの軋む音や、荷を運ぶ掛け声が響いている。「すみません。ルシアンという船頭を探しているのですが……」 エレナが近くの作業中の船乗りに歩み寄って声をかけた。 男は手を止め、軽く額の汗を拭いながら彼女たちを見上げた。「ルシアン? さっきまで、そこにいたが、どこに行ったんだろうな」 そう言って、彼は仲間の船乗りたちに目を向けた。「おい、ルシアンを見かけた奴いるか?」 その問いかけに、少し離れた場所で縄を巻いていた別の男が顔を上げた。「用事があると言って帰っていったよ。いつもの酒場にいるんじゃないか?」 リノアとエレナは顔を見合わせた。「教えてくれて、ありがとうございます」 リノアが会釈し、エレナも続けて会釈した。「酒場か……行ってみよう」 リノアとエレナが歩き出そうとしたその時、背後から船乗りの男が声をかけて来た。「ところで、お前たちは何でルシアンを探しているんだ?」 リノアは一瞬、言葉を探し、エレナと視線を交わした。 禁足地へ向かう理由を、そのまま口にするわけにはいかない。この街の人たちは、あの場所に対して特別な意識を抱いているはずだ。足を踏み入れてはいけない場所なのだから……「少し頼みたいことがあって……」 リノアは曖昧な表現に留めて、相手の反応を伺った。 船乗りの男はしばらく二人を見つめ、何かを考えるように眉をひそめた。 男はそれを聞いても納得した様子はない。言葉を濁したリノアを男はじっと見つめ続けた。 きっと、はっきりと口に出せないのは何か事情があるからなのだと、そう感じ取ったに違いない。「若い女がルシアンを訪ねるなんて滅多にないことだ。それなのに、お前たちはルシアンを探している。ルシアンに用ってことは、あれだろ。あの場所に行くんだろ」 場の雰囲気が微妙に張り詰め、船乗りたちの間に緊張が走る。潮風が足元をかすめ、微かな湿り気を含んだ空気が肌を撫でた。「そうです。私たちはルミナス島へ行く必要があるんです」 リノアは表情を変えず、冷静に言葉を選んだ。 その瞬間、船乗りたちの間に微かなざわめきが生まれた。「やはりそうか。しかし珍しいな」 船乗りの男

  • 水鏡の星詠   眠れる水の島 ①

    「船頭のルシアンなら、いつも使っている船着き場にいるはずだ。もし、そこにいなければ、たぶん酒場だ。奴は酒好きだからな」 エドワールが船着き場を指さした。 エドワールはリノアとエレナに目を向けて、落ち着いた口調で続ける。「ルミナス島への道は複雑だ。ルシアンなしでは到底たどり着けない。ルシアンは水路を知り尽くしてる。気をつけろよ。あの一帯をフェルミナ・アークと呼んでいるんだが、アークセリアとは全く別ものと思って良い。君たちが住んでいるクローブ村ともね」 エドワールは言葉を切り、思案するように目を細めた。「……あの空間だけ、まるで異質な世界のように感じるはずだ」 エドワールは僅かに眉を寄せ、息を吐いた。その声には言葉にはできない不穏な気配が漂っている。 霧に覆われた水鏡の湖に浮かぶルミナス島——ただ静寂があるわけではない。「フェルミナ・アークの全容は未だに掴みきれていない。内部がどうなっているのか、すべてが明らかになっているわけではないんだ」 エドワールは腕を組み、わずかに眉を寄せながら言葉を紡いだ。その瞳には静かながらも鋭い光が宿っている。「霧が深く、光の加減すら違う。そこへ入った者は、まるで時間の流れが変わるような感覚を覚えると言うが、確証はない。だが、一つだけ言えることがある——案内もなく、あの地へ入った者で無事に戻った者は殆どいないということだ」 エドワールの視線がふと遠ざかる。「私の知り合いも何人か行方不明のままなんだよ」 過去の記憶を探るようなその仕草——それは単なる思案ではなく、かすかな警戒を含んでいるようだった。 エドワールは軽く喉を鳴らし、再びリノアたちを見据えた。「……だから、気をつけろよ」 一瞬の沈黙の後、エドワールはわずかに肩をすくめた。「ルシアンがいるから、大丈夫だとは思うけどな」 静かながらも、その言葉には妙な重みがある。 リノアとエレナは自分に言い聞かせるように頷いて、セラとエドワールに向き直った。「色々ありがとう。セラ、舞踏会、頑張ってね」 エレナの言葉にセラは微笑みながら頷いた。「気をつけてね……」 セラの微笑みは柔らかかったが、その瞳は揺らいでいる。 リノアは頷き、エドワールに目を向けた。「エドワールさん、ありがとう。後は私たちで何とかしてみせます」「ああ、頑張ってな」 エドワール

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